-夜-
大神「………。……さくらくん…」
コンコン
誰かが大神の部屋をノックする。
大神「あ…今開けるよ」
ガチャ
大神「……エリカくん…どうしたんだい、こんな時間に…?」
エリカ「夜遅くにすみません…。あの~…もし今お暇でしたら…少し付き合ってもらえませんか??」
大神「いいけど…どこへだい?」
エリカ「ふふ…付いてきて下さい♪」
そう言うとエリカは、大神の腕を取った。
エリカ「…着きました。ここです!」
大神「ここは…?」
エリカ「昨日見つけたんです…。ここからなら、星が綺麗に見えるんじゃないかなぁって思って…」
そこはホテルから少し離れた場所にある、傾斜の緩い丘だった。
大神「……あぁ…。確かに綺麗だ…」
エリカ「私…星って大好きなんです。星空を眺めていると、私も頑張って輝かなきゃって思えるから…。星空は、私に希望をくれるんです」
星空を見上げながら、エリカはそっと続けた。
エリカ「昨日…大神さん、七瀬さんが泣きそうな時に『もういいよ』って言ってましたよね…。あれ…凄くカッコ良かったです」
大神「そ、そんなこと……」
エリカ「『誰だって、思い出したくない事の一つや二つあるもんさ』って言ってましたよね…」
大神「…あぁ…」
エリカ「私思うんです。『思い出したくない過去』も…それは自分が生きてきた証なんだって…。確かに、『思い出したくない過去』なんて、あっても辛いだけ…無くなっちゃえばいいって思います…。でも……」
大神はただ黙ってエリカの横顔を見つめていた。
エリカ「『辛かった』って思えるのって…すごく幸せな事だと思うんです。…今の方が幸せだから、『辛かった』って思えるんだし……何よりも、今自分は生きている…。悲しい事があったらみんなで泣けて、嬉しい事があったらみんなで笑える…。…そんな当たり前の事が、何よりも幸せな事だと思うんです」
大神「…そうだね…。1人じゃないことがどれだけ幸せな事なのか…華撃団の皆に教えてもらった気がするよ」
エリカ「……あの…大神さん?」
大神「…なんだい?」
エリカ「さくらさんを…信じてあげて下さいね」
大神「エリカくん…。」
エリカ「『桜樹』は記憶を消すって言ってましたけど…。大丈夫です。さくらさんは、絶対大神さんを忘れたりしませんっ!!…希望は捨てないでくださいね」
大神「…あぁ。」
エリカ「…私に誓って下さい。…この星空のもとに……さくらさんと幸せになるって……」
エリカの頬を冷たく、真珠のように美しい涙が伝う。
大神「誓うよ…この星空のもとに…」
エリカ「………」
エリカは涙を必死に堪えながら俯いた。
エリカ「……私が…。…こんなに……こんなに…大神さんの事…大好きな…私が……身を引いたんです……。……幸せにならなきゃ……許しませんよっ!!!」
大神「……あぁ!」
エリカは大粒の涙が溢れ出している顔を、大神の胸に埋めた。
エリカ「…大神さん……ほんの少しでいいんです…。ほんの少しだけ…このまま……」
満天の星は、二人を照らし続けていた…。
次回
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